[23] 六脚

 外見的には中型犬と変わらない。毛の色はだいたい黒だが、稀に青に近い色をした個体もいる。

 近くで見れば前足と後足のちょうど中間あたり、つまりは腹のあたりにもう1対、足が生えていることがわかる。通称、中足。

 合計で6本、足が生えている。だから六脚犬。


 中足自体の運動機能はあまり高くない。むしろ移動に際して邪魔になることもあるぐらいで、整地における移動速度は通常の犬に比べて低下している。

 けれども中足の機能は姿勢の安定制御に大きく寄与しており、不整地における踏破能力が大幅に上昇している。閉鎖空間において壁、天井を利用しての立体的な機動にも中足が役立っていると考えられている。


 それらの性質から廃墟に生息していることが多い。

 不安定な瓦礫の上の移動は得意とするところだし、見通しのきかない廃屋内での交戦となれば独壇場と言える。彼らは放棄された都市に上手に適応している。


 戦闘を想定する場合、重視すべきポイントは2つ。

 1つはなるべく有利なフィールドで戦うこと。つまりは地面は完全に整備された平らな状態で、壁及び天井のない開放された空間であることが望ましい。

 相手の運動能力がいかされる状況に自ら飛び込むべきではない。


 もう1つはできる限り察知されないことだ。

 たとえ遠距離から狙撃を行ったとしてもそれが六脚犬に知られていたとすれば、回避されたとしてもまったく不思議ではない。とりわけ立体的な跳躍が可能な状況では彼らの機動力は非常に高い。

 接近戦もやめておいた方が賢明だろう。まずこちらの攻撃は当たらないものと思っていた方がいい。


 来歴はよくわからない。

 一般的な犬から自然に変化していったとは考えにくい。外的な改造が加えられた可能性が高く、昆虫との交配説を唱えるものもいる。


 一定の知性を有しており、自分たちには得意不得意があることも理解している。これは人間にとって歓迎すべき点でもある。

 彼らは縄張りから出てこない。領域に足を踏み入れるものには先制攻撃を加える事例もあったが、近くを通ってもその根城に侵入しない限り襲撃を仕掛けてくることはない。


 また侵入者に対する攻撃性も非常に限定的であると推察されている。

 縄張りにとどまる間、その攻撃は絶え間なくつづき執拗であるが、その外敵が縄張りから離脱すればもう追撃が加えられることはほとんどありえない。

 極端なケースでは、命からがら逃げだしたものの六脚犬の住む廃墟のすぐ外で気絶してしまったという男性は、攻撃を受けることなくそのまま目覚めた。

 恐ろしいほどに彼らは慎重だ。軽率であることを期待してはいけない。


 六脚犬への対処法として遭遇しないことが第一だ。

 遭遇してしまった場合は反撃は諦め、その領域から脱出することを優先しろ。

 排除を目的とするなら、その生息する廃墟ごと破壊するのがもっとも楽な方法である。

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