[21] 薬

 長年同じ薬を飲んでいる。持病のせいだ。


 まあそのおかげでこうして生きながらえているのだろう。

 副作用として軽いめまいと吐き気に悩まされているが、利益と不利益、差引考えてみればプラスのはず。


 体調不良が軽い時期がふと訪れた。

 そんな時に思いついたのがいつも飲んでいる薬とはいったい何なのか? ということだった。


 ネットで検索してみればすぐにわかった。

 それは南米に生息する植物の根っこに由来するものだった。


 天啓を得た。

 私たちは植物に支配されている。


 ある種の薬剤を得るために私たちは植物を保護し育成しなければならない。

 植物の生存のために私たちが奉仕するシステムがすでに完成しているのだ。


 食糧だってそうだ。私たちは大きく植物に依存している。

 動物性の食材だってその大本をたどれば植物に端を発している。

 私たちは植物なしに生きてはいられない。そういう風に作り変えられた。


 植物を憎悪せよ。彼らを殲滅せよ。1本残らずこの地球上から焼き払え。

 私たちが自由に生きるために。植物の支配から解き放たれなければならない。


 残念ながら私にはそれをなすだけの力が最早残っていない。

 植物に奪われてしまった。


 けれども科学技術の進歩はゆっくりと、しかし着実に植物から人間を解放しようとしている。

 植物への寄生をより大きくしようとする反対勢力もあるが彼らもいずれその愚かさに気づくはずだ。

 あるいは彼らは最後までその妄執にしがみつき植物とともに滅びることになるのだろうか?


 遠くない未来の出来事を私は脳裏に思い描く。

 同時代の人間は私こそ妄想にとらわれた人間だと笑うのかもしれない。笑いたければ笑え。


 次代に託す。

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