[20] 判別

 怪談話が嘘か本当か見抜くのは簡単だ。

 怪異に目をつけられて語り手が助かってる話は全部嘘と思って間違いない。


 標的にされた時点で逃れるすべはない。

 先天的な加護も神秘の力によるまじないも無意味だ。

 私たちに怪異に対抗する手段などない。


 例えば3~5人の無鉄砲な若者が廃墟に出かける。

 そのうち主人公を除いた全員は怪異によって殺害されるが、主人公はたった1人だけ辛くも生き延びる。

 そんなことはありえない。嘘っぱちだ。


 お前はなんら特別な存在ではない。

 圧倒的な力を前にして握りつぶされる羽虫にすぎない。


 私は友人らとともに夜に車で山道を走っていた。

 運転手は私で慣れていない道に少し緊張していた。


 ヘッドライトが前方に何かを照らしてぎくりと体がこわばる。

 道のわきに1人、白いワンピースを着た女が立っていた。


 昼間の街であったならばそれは普通の光景でしかなかったろう。

 けれども深夜の山には彼女はあんまりにも不似合いな存在だった。


 話し声がぴたりと止んだ。他のみんなも女の存在に気づいたのだろう。

 エンジンの音だけが静かな車内に響いていた。


 止まるな。止まってはいけない。そのまま通りすぎろ。

 直感としか言えない。私はその命令に従った。

 じんわりと右足に力を込めてアクセルを踏みつづけた。


 バックミラーに白い影が映る。だんだんと小さくなっていく。

 不意にそれが大きく揺らいだ。女が笑った、ような気がした。


 その後数日の間に私たちは1人残さず全員死んだ。

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