[18] 菌類

 僕はキノコ人間だ。


 中学生の頃、山で迷ってたら猟銃で頭を撃ち抜かれた(犯人はいまだにわからない)。

 その瞬間に意識が途切れたわけだが、どういうわけだか再び目覚めた。


 目覚めた場所は倒れたのと同じ山の中で、太陽の位置から考えて時間はさほどたっていないようだった。

 撃たれたと思えたのはただの勘違いだったのかとあたりを見れば、確かに血痕が残っていた。


 もしかすると自分は疲れているのかもしれない。

 そう考えて釈然としないものを抱えながら僕は山を降りることにした。

 その時、足元に積もる落ち葉をひどく好ましく感じられて、それは1つの兆候だった。


 ふもとにたどりつけばなんだか騒がしいことになっていて、近づいてみたところその騒ぎの中心は僕だった。

 話を聞くと僕は行方不明になっていたようで、なんと驚いたことに山に入って3日が経過していた。


 倒れてそれだけの時間眠っていたということになる。

 けれども不思議なことにまったくと言っていいほどにお腹はすいていなかった。


 僕は日常に帰っていった。


 変わったことは3つあった。

 火に対する恐怖感が増したこと。

 見た目に比して体重が減ったこと。

 それからキノコ類に親近感を覚えるようになったことだ。


 何より大きかったのは山への帰属意識が極端に強まったことだった。


 以前から山に立ち入るのは好きだった。

 けれどもあの出来事があってから僕は暇さえあれば山を歩き回るようになった。


 特に生活に支障はなかったので、僕はその変化を受け入れつつ、理由についてゆっくり考えた。

 考えた結果、出た答えというのが自分がキノコ人間になったということだった。


 僕は確かに頭を撃ち抜かれて脳の一部を欠損した。

 その直後、運のいいことに胞子がそのなくなった部分に入り込んできて、埋め合わせたをした。

 人体のうちいくらかを菌類によって補填されることで、無事に意識を取り戻すことができたのだ。


 僕は僕に寄生しているその菌類を排除しようとは思っていない。

 それらはすでに僕に溶け合って同化しており、別種の存在であるとは感じられないからだ。

 同様の理由で仮説の検証をする予定もない。


 ただ今でも週に1度は山に入って胞子を放出することにしている。

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