[13] プール

 冬の話。

 小学生の頃、プールの近く掃除してたらどっかから視線感じた。


 まずその感覚が初めてのことだったからびびった。いや視線感じるってなんだよって。

 でもそうとしか言えない。どっかから誰かにじっと見られてるなって感覚があった。


 気持ち悪かったからあたり見まわしたんだけど誰もいない。

 位置的にはプールはグラウンドの角にあって、その時掃除してたのはプールとグラウンドの端の壁の間の通路的な部分だったから、そもそもあんまり人に見られるような場所じゃなかった。


 なーんか嫌だなあと思いつつもどうしようもなかったから掃除つづけたんだけどやっぱり落ち着かない。

 で、もう1回だけぐるりと見まわしたところで気づいた、気づいてしまった。


 そいつがいた。プールの中に。

 黒い長髪がじっとり濡れてて前髪もべったり顔にはりついてるんだけど、その間から赤い目が2つじっとこっちを見つめていた。

 口から下は水面に入っててわからなかった。


 雰囲気は女っぽかったけどどうだか知らない。

 ばっちり目があってしまったのでそのまま動けないでいた。

 まあ向こうもこっちを見るばかりでプールから出ようとはしなかったけど。


 お互い見つめあって膠着してどれだけ時間が流れたのか、遠くでチャイムが鳴ってるのが聞こえた。

 あ、掃除の時間終わったんだなって思って、視線は向けたままじりじり下がってって、ひらけたところに出たら振り返って走って逃げた。


 その後は卒業するまでなるべくプールには近づかないようにしてた。

 夏の授業の時には仕方なく入ってたけど。人もたくさんいたことだし何も起きなかった。


 この話は誰にも話してない。今になって初めて書いた。

 学校でも特に噂になってなかったと記憶している。

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