[5] ラーメン

 長年使ってる、今も使ってる駅なんだけど、1回だけ変なことあったわ。

 飲んだ帰りにふらふら歩いてたらおんぼろ屋台が出てた。くっせえ匂いがぷんぷんしてて食欲そそったのでのれんくぐってラーメン1杯頼んだ。

 店主はじいさんだったような気がするけどはっきりしない。ただ注文受けてにやりと笑った顔の下部分だけ変に鮮明に思い出せる。

 ぜってー健康によくないよなー、でももう頼んじゃったしなー、なんて考えてたらわりとすぐ出てきた。ジジイは無言。なんてことない普通のラーメン、に見えた。

 味の方も特別うまくもまずくもなかったはず。印象に残っていない。ただ口の中がねとっとしてなんかすごい嫌な感じがした。

 それでもまあ食えなくもなかったからずるずる食ってたんだけどそしたらなんかがのどの奥につまったんだよ。咳き込んだら机の上になんか思ったより大きなものがごとっと落ちた。

 指だった。

 成人男性の指でちゃんと爪もついてた。親指じゃなくて他の指だったと思う。人差し指か中指か薬指のどれか。正直ちゃんと見てない。

 どういうことなんだと思って顔を上げたら店主のジジイがげらげら笑っててそれ聞いてたら猛烈に吐き気が込み上げてきた。耐えきれず嘔吐したら吐しゃ物のなかにさらに2、3本指が混じってた。

 そのあたりから頭がくらくらしてきて記憶も漠然としてくるのだけど、笑い声を聞きながらどうも椅子ごと後ろに倒れたらしい。背中に強い衝撃を受けてそれでも遠くでジジイの笑い声が鳴っていた。

 目覚めたらまだ夜でスーツは吐しゃ物で汚れていた。けれども屋台はなくなっていて指も落ちていなかった。

 酔ってたんだろと言われたそれまでだけど、あれは怖いというよりものすごくいやーな体験だったと今にして思うよ。

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