猫
彼女は前髪の揃った黒髪が似合う益若つばさに似た女性。
シンママで小学生の娘がふたり。
住まいは昭和初期に建てられたという平屋建ての一軒家で、元々親戚が住んでいたらしい。
和室の襖には娘たちがクレヨンで描いた落書きが一面に描かれていた。
その襖は所々穴が開いて破れてボロボロになっていた。
玄関や和室、農機具を置いてあっただろう倉庫スペースのあらゆる所に猫がいた。
僕が猫について聞くと3匹の猫は拾ってきた猫が、いつからか子猫を産んで増えたと、猫の名前や特徴と一緒に答えた。
見た目からは想像もつかない住まいだったが、まったく気にしてもいない彼女の性格がとてもかわいかった。
彼女と会うときには、ふたりの娘の姿は無かった。
親戚の家に遊びに行っていると言う。
彼女の両親は離婚し、親権を持っていた母親はどこかに行ってしまったようで、同じ市内に住む親戚だけが頼りとの事だった。
僕は猫があまり好きではない。
猫自体はかわいいし、見れば触りたい衝動に駆られるのだが、猫の排泄物の臭いが苦手だ。
猫を飼っている本人は気付いていないだろうが、家や服からは大抵が猫の排泄物の臭いがする。
彼女の家も例外ではない。
セックスをしていても、彼女の肌や髪の香りとは別に猫の排泄物の臭いを感じた。
それでも結局は快感が勝ち、ふたりで絶頂を迎えるのだが。
唯一、彼女の家で猫の排泄臭がしないのがお風呂だった。
タイル張りの壁にステンレスの風呂には四角い何かの機械がくっついていて、そこからパイプが伸びていた。
娘をふたり産んだ彼女の身体は、大きな胸は垂れて乳輪は濃い茶色をしていたが、僕はそんな彼女の人生を映した身体が好きだった。
丸くしゃがんで、長い髪を洗う彼女を、僕は風呂の中から眺めた。
彼女の家の倉庫スペースにはドラムセットが置いてあった。
別れた旦那が置き場所がないと置いていった物らしい。
ある日、会うはずの予定が急にキャンセルになった。
理由を聞くと、ドラムが叩きたいからと元旦那が家に押しかけてきたらしい。
家に見慣れない車が停まっていると、そうやって理由をつけて邪魔をしに押しかけてくると言った。
僕が元旦那と話すからと言うと、何かと理由をつけてどうせ来るしホントに危ない人だから、何かあったら嫌だと答えた。
彼女の家は僕の部屋から距離があった。
彼女の娘たちが親戚の家に行っている間しか会えないから、それほど遠くへは行けず彼女のお願いで、彼女の家を避けてデートをした。
ある日のデートの帰り、もう会えないと彼女に告げられた。
理由を聞いても「ごめんね。私なんかより、きっといい人に出会えるから」と。
何となく理由は元旦那だろうと察してはいたから、僕もそれ以上は何も言えなかった。
彼女は今もまだあの家に別の猫と暮らしているのだろうか。
それとも誰かいい男性に出会い、新しい環境で幸せに暮らしているのだろうか。
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