ダウニー


※今回の話は道徳的に反する内容を含みます。


配達女性スタッフが働くセンターを新設することとなり、僕は新センターの立ち上げ担当となった。

建物は完成していたので、僕は内部フロアの作業机の配置やPCの設定、配送女性スタッフが使用する配達用情報端末の設定などを行う。

他には掲示板の設置場所や作業動線の設定も行った。


新しいセンターが完成すると、他のセンターから移動してきた人や新たに募集した新人さんですぐに定員近くになった。


僕はそのまま新しいセンターの訪問営業の業務に就いた。


彼女はブラウンの艶のあるロングヘアをいつも頭の上で束ねていて、垂れ下がる髪とキレイな細い首に僕は見とれていた。

前歯2本が他の歯より長く、彼女は自分でガチャピンと言っていた。

それでも顔立ちはとてもかわいかった。


僕は彼女の担当になった。

設定された顧客数はすぐに達成して、彼女と新しいお届け先の同行案内が始まった。

彼女が配送の時に車で流す音楽は、僕も良く聴くバンドだったことや他の好みも似ていたので、すぐに打ち解けた。

同行最後の日、彼女とまた会う約束をした。


彼女には旦那と保育園年長さんの息子がいた。

最初の待ち合わせのとき、彼女の車の後部座席にはチャイルドシートに乗せられた息子くんも居たので、そのまま彼女の軽自動車で出かけた。


そうして3人で何度か出掛けた。

傍から見れば普通に仲のいい親子に見えていたのだろう。


ある日、後部座席のチャイルドシートは空だった。

実家に預けてきたと彼女は言った。

初めてふたりで食事をし、ドライブをして僕の部屋でセックスをした。


それから度々、子どもを実家に預けてくることが増えた。


彼女はダウニー柔軟剤の香りが好きだと言って、僕の部屋にダウニーの1.5Lサイズを置いて行った。

そのうちに部屋に彼女の息子も連れて来るようになり、3人で過ごした。

彼女は旦那の事を話した。


家に居ても何もしない。

喧嘩になると無視して、何も無かったように振る舞う。

休みの日も、釣りやパチンコに出掛けてだいたい居ない。

だから私が出かけたいときは、子どもと一緒は親に預けて出掛けるしかない。


彼女は旦那と別れて僕と再スタートしたいと言った。


数日後、彼女は子供を連れて家を出て、実家で暮らすようになり、彼女の両親も離婚してやり直すことに賛成しているようだった。

ただ一人、彼女の旦那はもちろん反対して離婚はしないと言い張った。


その日は猛暑で、汗ばみながら訪問営業で歩いている時に、知らない番号からの着信があった。

「おい、わかるか。」

電話の向こうは知らない男の声。

当然知らない。

誰か知らないと答えると、電話の向こうの男は旦那だと答えた。

彼女の携帯から僕の番号を知ったようだ。

「おまえ、何してくれてんの」

よく顔も知らない相手に対してそこまで威圧的になれるもんだなと思いながら、彼女が旦那に対して不満に思っていることを全て告げる。

沈黙が続いたので、電話を切って着信拒否に設定した。


それから数日経った日、彼女から会いたいと連絡がきた。


もう僕とは会えないと彼女は言った。

旦那が結婚式の写真を持って彼女の実家を訪ねて、母親の前で泣いて同情を誘い、それにすっかり気持ちの変わってしまった母親に、別れないよう説得されたらしい。


僕は何も言えない。

何かを伝えたところで、この事を伝えに来た彼女には無駄だろうとわかっていた。


いつか懐いていた猫は、お腹を空かせていただけで


僕の好きなバンドの歌詞が浮かぶ。

彼女が勝手に置いて行ったダウニーはまだ半分以上も残っていた。




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