両手

妻が黙って出て行ってしまって、昼間は息子たちの世話を僕の両親がみてくれた。

まだ幼い息子たちには母親が突然いなくなったことは当然理解できず「おかあさんはお仕事で遠くに行ってる」と嘘をついた。


幼稚園の発表会にも妻は来なかった。

後で知ったがこっそりと見に来てはいたらしい。


妻の行先はわからず、実家にも帰っていないとのことだった。

はじめの内は孫がかわいくて、毎日両親ふたりとも家に来ては面倒をみてくれていたが、そうして5ヶ月が過ぎると次第にストレスがたまり、僕に妻が出て行った原因について毎日追求するようになっていた。

妻が息子たちを連れて出て行かなかった事や、妻の両親の態度に腹を立てていた親父も僕に対してストレスをぶつけてくるようになる。


誰も味方なんていない。


それでも僕の膝の上に座って甘えてくる息子たちの笑顔だけは支えになった。


ある日、長男が「おかあさん死んじゃったの?」と言って泣きだした。

僕は涙が流れるのをこらえながら、息子の頭を撫でて両手で強く抱きしめた。

母親はその様子を黙って見ていた。

その夜に息子たちの寝かしつけを終えた僕に母親が話があるといい、リビングに向かた。


「なんでこんな事になったの?浮気とか、こんな事する息子に育てた覚えはない」と。

僕はかあさんの知らないところでいろんな困難にぶつかっては、ひとりで乗り越えてきたんだよ。

「浮気相手と一緒にいたいなら、あんたが出ていけば良かったのに。」

浮気してないし誤解なんだよ。

「こんな酷いことになるなら、おかあさん死にたい。」

ほんとは死にたいのは僕だよ。

「いっそあんたに殺してほしいわ。」


僕は言いたい事を言わずにずっと黙っていたが、僕を強く睨みつける母親の首に両手を伸ばした。

母は目を閉じたが、僕はその両手に力を加えることができなかった。

母の首はとても細かった。


僕はその両手を話すと、その場に跪いて大声で泣いた。

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