誕生

妻との新生活。

幸せとはこういう事なのかと思った。

管理栄養士を目指す妻の料理はとてもおいしく体重も少し増加した。

妻と家の中のあらゆる場所でセックスをした。

特にお気に入りだったのは、子ども部屋として作った8畳の部屋のロフト。

夜は月明りが良く入り、月明りに照らされて陰影のついた妻の身体はより綺麗に見える。


1年後、妻は妊娠した。

つわりの時期を乗り越え、日に日に妻のお腹は大きくなっていった。

バストサイズが3サイズ程上がり、乳輪が茶色くなって、お腹の膨らんだ妻の身体も美しかった。


厳しい冬も終わりを迎えようとする3月、ついにその日がやってきた。

妻に促されて何度も検査に通った、地元では有名な産婦人科に車を走らせる。

陣痛の間隔と子宮口の開き具合を時折チェックされる妻の背中を、夜の入りから真夜中、朝方までさすり続けた。

子どもの心音とオルゴールの音楽が流れる分娩室で朝まで過ごすと、妻の両親が来て、一度帰って風呂に入って何か食べて来るように促された。


一度、家に帰って風呂と食事を済ませてからまた産婦人科に戻る。

産婦人科に戻ると十数分前に分娩室に移動したと聞かされた。


分娩室前の廊下に置かれた長椅子に妻の両親が座り、僕はその廊下をウロウロして誕生を待つ。

分娩室の緊迫した声が止むと、次に小さいけど力強い鳴き声が聞こえてきた。

妻の両親は長椅子から立ち上がり、僕も分娩室の方へ向き歩いた。

助産師さんが白いおくるみに包まれた息子を連れてきた。

男の子だという事は事前に聞いていたので、男の子用のベビー用品は事前に揃えてある。


以前から聞いてはいたが、生まれたての赤ちゃんは皺が多く赤みを帯びていて、握りしめた手は栗の実くらいの大きさだった。


両親に連絡をすると30分ほどで産婦人科にやってきた。

ガラスの向こうでゆっくりと寝息を立てている息子を見て両親は泣いている。


こうして僕は父になった。


育児は分担しようと決めてあった。

僕は夜のお風呂とオムツ交換、一日交替で夜中のミルクあげをする。

キッチンシンクにベビーバスを置き、お湯を入れながら息子をお風呂に入れる。

左腕を使い頭を優しく掴んで、お尻を腕の関節部分に乗せてバランスを保ちながら、右手で頭や体をベビー用のスポンジで洗っていく。

頭を洗うときは顔に水がかからないように特に気を使った。


夜中のミルクはだいたい3回か4回。

ぐずる気配がしてきたら起きて、ミルトンの保存液に浸けた哺乳瓶にミルクを入れてあぐらをかいた膝の中でミルクをあげた。


ゲップをさせるために肩の上に頭が来るように抱いて、背中を軽くたたきながら、寝室の中や家中を歩いた。


会社が休みの日には妻が疲れて寝ている間、息子にミルクをあげた。

「パパが一生かけて守ってやるからな」ミルクを飲む息子にそう伝えた。


その2年後にもうひとりの息子が産まれた。

日本中のどの家庭よりも僕らの方がきっと幸せだった。

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