後悔
aikoに似た彼女は当然aikoのファンだった。
彼女の部屋でaikoのライブDVDを観たり、ドライブの時はaikoの曲を聴きながら海沿いをドライブした。
彼女と出会う前はaikoはあまり聴いていなかったけど、自分の部屋にひとりで居るときにも、aikoのDVDをimacで見る程になっていた。
今でもaikoをテレビで見たり、街でaikoの曲を聴くと彼女を思い出す。
彼女の家の近くには田んぼが広がっていて、その田んぼでは5月になると蛍が真っ暗な田んぼ道を幻想的な空間に変えた。
僕の誕生日には彼女と蛍を見て歩いた。
彼女をおんぶして光に包まれた田んぼ道を歩いて大声で笑い合った。
そのあとは彼女の部屋のベッドで激しくセックスをした。
ある時、彼女の家の母屋に招かれると、彼女の両親に紹介された。
小鉢に盛られた料理がいくつか並んでいたが、緊張のせいで味はよくわからなかった。
そうして何度か母屋で食事をするようになったある日、離れの彼女の部屋に呼び止められて、僕に兄弟が居ない事を確認された後で、あの子と一緒になりたいなら養子に入って欲しいと、そんなニュアンスの事を言われた。
そのことは彼女に黙っていた。
彼女の家の周りを探検するように一緒に歩いているとき、彼女がいつもと違う表情をしているので僕が気にかけて話を聞く。
お互いに長男と長女だから一緒になるなら私の家に来てもらわないといけないと僕に話した。
もし今、現在の彼女と出会っていなくて、もしタイムマシーンがあったならこの頃に戻りたいと心から願う。
親父は20代の頃に田舎から出てきて母親と一緒になり家を建てた。
家から車で5分程の場所に、僕が将来住めるようにと土地を買っていた。
親の気持ちを考えると家から離れられないと、そう決め込んでいた。
あの時の僕の選択はきっと間違っていたと、後悔していたが人生はそのまま進んでいった。
一生愛せる息子たちと娘たちに出会えた運命に後悔はしていないとしても、愛していた女性を悲しませて傷つけてしまったと後悔している。
それから数日後、彼女の部屋で彼女と向かい合いながら、「前に付き合っていた人の事がが忘れなれなくて、このまえ会ってホテルに行った」と彼女に嘘をついた。
彼女の目に涙が滲んでくる。
彼女は一言「ひっぱたかせて」と言った。
僕はうなずいた。
小さな手が僕の頬を叩く。
彼女は座ったままうつ伏せになって、声を殺しながら泣いた。
丸まった背中に手を添えると、首を横に振って僕の手を払いのけた。
彼女の家の近くにある小さな公園の横に駐車した車に戻る。
ドリンクホルダーには彼女が飲んでいたオレンジジュースの缶がそのまま置いてあった。
僕は公園で遊ぶ子供たちに気づかれないように顔を伏せて泣いた。
涙を親指で拭き取って車のエンジンをかけると、オーディオからaikoのロージーが流れてきて、僕はまた泣いた。
生まれた時からずっと
あなたに抱きしめて欲しかったの
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます