嘘寝
転職先の業務は多忙だった。
情報雑誌を発行していて、その広告枠で収益を得る広告代理店。
営業部署と編集部署、それにデザイン部署。
編集部署では取材や記事の内容を下書きに起こし、それを元にデザイン部署で写真修正やページの編集デザインを行う。
毎月の発行日が決まっているので、印刷入稿の締切日前は徹夜にもなった。
僕が入社したときに、デザイン部署のチーフが退社する1ヶ月前で、その引継ぎからの業務スタートだった。
そしてそのままデザイン部署チーフとなった。
その後3名程の新入社員が入社し、全員が僕の部下になった。
その中に彼女が居た。
細身でブラウンのロングシャギーが良く似合う色黒のアスリートタイプ。
業務での苦難を共に乗り越える内に、お互いに惹かれ合うようになっていた。
その時の彼女には長く付き合っている彼がいると聞かされたが、それでも構わないと伝えると交際がスタートした。
彼女とのセックスはゴムを付けるのが絶対条件。
僕はゴムが苦手だったけど、彼女の細くて程よい筋肉質の身体に夢中になった。
何度か彼と別れて欲しいと頼んだが、もう兄妹のような付き合いだから今更離れられないと言われた。
また身体だけの関係になってしまうのが、嫌だったが別れる選択はしなかった。
ある時に彼女から朝まで一緒に居られると言われ、ホテルで夜中まで何回もセックスをした。
明け方に何となく目を覚ましたが、彼女はまだ眠っているようだったのでそのまま体を起こさずに目を閉じた。
しばらくすると隣で彼女が上半身を起こす気配。
僕はそのまま寝たふりを続けていると、頬に柔らかな唇の感触がしてそのあとで鼻先が触れた。
彼女は僕の前髪に指を絡ませて撫で上げると僕のおでこにキスをした。
そこで僕は嘘寝を止めて、やっと起きた素振りをする。
少し驚いた彼女の顔を見たあと、彼女の首の裏に手をまわして彼女の顔を引き寄せてキスをした。
それから数日後、彼女に別れを告げた。
1年後、似たような広告代理店が増えて広告枠の収益だけでは会社が成り立たなくなり、会社の業態が婚活ビジネスに変わると僕たちデザイン部門はお払い箱となった。
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