第一章 若さ馬鹿さ
ブラックコーヒー
studioMのマグカップからドリップバッグを取り出してゴミ箱代わりのコンビニビニール袋に捨てる。
まだ熱くてとても飲めそうにないので、香りだけを愉しむ。
鼻の奥にほろ苦いスモーキーな香りが通り抜ける。
珈琲はいつの頃からかブラック派になった。
ミルクをたっぷりと入れた甘さを加えた風味は嫌いではない。
何かに集中したいとき、緊張を抑えたいときにはブラックで嗜む方が好みだったので、自然とブラックで飲むことが多くなった。
はじめて珈琲をブラックで飲んだのは中学3年の秋のこと。
通っていた中学校はかなりのマンモス校で記憶だと11クラスあった。
だから同学年でも見たことも話したこともない人なんて何人もいた。
関わりを持てたのは同じクラスか友達の友達くらい。
彼女に出会ったのは中学3年の3年4組。
クラスの中でも背が高く、大人びて見えた。
彼女はいい感じに目が離れていてショートカットも似合っていた。
あまり話す機会は数える程しか無かったが、夏の初め頃には恋に落ちていた。
顔が好みだった。
男女関係なく人気があり、女子の中でも中心的な存在だった。
しばらくモヤモヤした片思いが続いたが、秋ごろには気持ちをつたえようと
心に決めた。
その頃はスマホも携帯も無かったから、連絡を取る方法は固定電話のみ。
どうやって家の固定電話番号を知ったのか、すっかり忘れてしまったが電話をして気持ちを伝えることにした。
緊張を抑えたくて、親がお中元でもらってそのままになっていたブラックの缶コーヒーを飲んだ。
苦かった印象だけは残っている。
一気に一本飲んで電話の前に行く。
緊張して電話のダイヤルボタンが押せない。
もう一本。
まだ無理だ。
もう一本。
時間にしたら5分くらいのことだったと思う。
電話して父親が出たら何て言おう。
そんな心配で頭はいっぱいだったが、なんとかダイヤルを押し呼び出し音が耳の奥でなった。
聴こえてきたのは聞き覚えのあるかわいい声。
「前から好きでした。付き合ってください」
僕は何度もセリフのように練習した言葉を電話越しに伝えた。
心臓の鼓動が音にして聞こえるかと思ったくらいだった。
意外と僕は女子に人気があるタイプだった。
目立つタイプでは内が女子が口に出さず、密かに好きなタイプ。
彼女は付き合ってもいいと言ってくれた。
電話を切った後で僕は牛乳を一杯飲んだ。
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