第七話 雨降って石柔らぐ 2/3


「へー、あの映画好きなんだ。俺まだ見てないわ」

「そうなの? 絶対面白いから、見た方がいいよ」

「そっかー、じゃあさ……今後一緒に、見る?」

「え……///」


 って、なるかーい!!!


 よし、落ち着け。まず今の状況を整理しよう。

 まず、今日まで俺と雨ヶ咲 流海あまがさき るみはまともに話した事が無い。

 そして、突然雨が降り出して、雨ヶ咲が途方に暮れていた(気がする)ので、たまたま傘が余ってたから貸してやろうとした。うん、ここまでは良い。

 で、今俺は傘をさして田んぼと田んぼの間にあるあぜ道を歩いていて、そこから二メートルの距離を保ったまま、スライム(雨ヶ咲)が後方を歩いている。


 ……え? 何これ? どういう状況? 仲間になりたそうにこっちを見てたっけ? 今から俺は魔王城に行くのか?


「……」

「……」


 ぐっ、気まずい! 何か話題は、話題は無いのか? 「融接ならアークとレーザーとビームどれが好き?」とか聞けば良いのか? 

 なんて事を考えていたら向こうから話しかけてきた。


「かねもりくん、て」

「あ?」

「水とか、飲んでないよね」

「……あー気づいてたか。まあ隠してるわけじゃないが。自分でもわかんねーけど、モロ水!って感じのが飲めねーんだ」

「でも、それじゃノドが渇くんじゃ?」

「だから氷を噛み砕いてる。後は『大豆だいずバー』とか、おかずを水浸しにしたり」

「じゃあ、豆腐とかヨーグルトは?」

「んー、余り柔らかくて水っぽいのも駄目だな」


 というか、ちょっとでもこっちの事を気にしていたのか。名前の読みは間違えてるけど。


 ……ん? ということは……


 俺がいつも雨ヶ咲の事を見ていることに気づいていたってことか!?


 ぐっ! そういう事か……。何せこっちからは雨ヶ咲の視線が分からない。せいぜい顔の向きぐらいだ。前を向きつつ、こっちをチラチラ見られていたとしても俺の方は気づけない。

 それで何か勘違いしたか、それとも「こっち見んな、気持ち悪い」と、この機会に言おうと思ったって事か。くそっ、やられた!(何が?)


 先に言っとくが(誰に?)、俺は雨ヶ咲に対して一切恋愛感情は抱いていない。どれだけ性格が良くても、この先雨ヶ咲の良い所を見つけたとしても、結局俺からしたらスライムに見えるんだ。超犬好きでも犬と結婚したいと思う人は居ないだろう……居ないよな?


 話を戻して……よし、こうなったら、カウンター罠で向こうのコンボを止めるしかない! いや、相手先行でまだ一枚も伏せてないから……あれだ、手札誘発だ! ちなみにエクシーズ出た辺りで遊ぶのは止めた! 好きなモンスターはデスペラードリボルバードラゴンだ!


「じゃあかねもり君って……」

「そう言ったら、俺もお前が何か食ってる所を見たことが無いんだけど」

「……」


 チェーンブロック成功。雨ヶ咲の動きが止まり、ちらりとこちらを向いて伺うような視線を向け……ている気がするがよく分からない。ギリギリ分かるのは顔の向きまでで、目線や、細かい表情の変化は全く読めない。


「……ちょっと、胃が弱くて」

「へえ」


 そもそも胃があるのか。いや、俺がそう見えているだけだったな、そういえば。

 ……そうだ、俺が見えているなんだ。実際目の前に居るのは、あくまでも普通の女子高生だ。

 そう考えてみると、不思議と落ち着いてきた、さっきまであんなに動揺していたのに。

 そうだよ、何をビビってるんだ俺は。普通の女子高生が相手として普通に接すれば良いだけじゃないか!

 

 ……ちなみに、女子高生と普通に接した経験は未だに無い。

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