第五話 君の中は。

 その血は赤かったか?


 それとも青くはなかったか?


 飲んだのは白かったか?


 混ぜたのは緑色をしていなかったか?


 忘れたのは全てを黒で塗り潰したからではないのか?



****************



「…………」


 起きた直後は決まって口の中が渇いている。砂状の鉄を舐めているような、気持ち悪い感触で目が覚める。

 自室にある冷凍箱から、氷ブロックを取り出して噛み砕く。多少は舐めるが、それで融け出すのは何時も血の味だ。


「おはよ」

「おう」


 二階の自室から降りた食卓には父が居て新聞を読んでいる。パンと、ヨーグルト、フリーズドライの蜜柑、昨日の残りのカレーが置かれている。ヨーグルトを食べ、蜜柑を齧り、パンはカレーに浸して食べた。


「母さんは?」

「早番だと」

「そう」


 母は病院の看護師をしている。不規則な勤務で大変と聞くけど、当の本人は何時も平気な顔をして家でも病院でも豪快だ。


「お前も今日休みだろ? 手伝え」

「ああ」


 逆に物静かな父は自宅の隣で小さな鉄工所を営んでいる。たまにデカい仕事(の下請け)はあるが、大抵はネジとか、支え棒とか、近所で必要な物を作る。

 俺も金属加工は好きなのでよく手伝っている。


「今日は?」

「ほぼ焚き(溶接)だな」

「溶かす?(溶極式溶接)」

「いや、数は無いからアク抜き(アーク溶接&焼抜き栓容接)だ」


 何の役にも立たない、ただひたすらに硬いだけの鉄材が、何かを守り、支え、繋ぎ止める為の部品になっていく。その過程を自分が担っていると感じる時間が自分の中で充実していた。

 ただ、今の所本格的に資格を取って大企業で……とかは考えていない。


「先にホイホイ(ホイスト式クレーンで重い材料を運ぶ)して、シャー(鉄板裁断)してくから、後でサンダー(グラインダー研磨)な」


 単純に此処で学んだ事が他所で通用しない気がするので……。

 まあ、他に何か見つけるまでは継いでも良いか、通勤楽だし。


「……」


 ふと思う。雨ヶ咲は何に支えられているんだろうか? 

 何に守られ、どうやって繋ぎ止められているんだろうか?

 全身透けているのに、その『中身』は未だにさっぱり見えてこない。

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