ドッキリ
◇
七年前。
ちょうど今と同じゴールデンウィークのこと。
サッカー部の正式な創立を祝って、雪兎の家でパーティをすることになった。
雪兎の家は、知っての通り、学校から近いから普通に車で行ける。雪兎も時々、家に帰ってたし。自宅生兼寮生ってことだな。
で、その日、雪兎は準備があるから先に帰った。「美味しい料理作っとくから、楽しみにしててね~」って。
夜になって、俺達はフレッド先生の車で雪兎の家に向かった。
その途中で接触事故を起こしちゃってさ。あ、うん、熊と。雪兎はたまにあることだって言ってたけど。俺達は北海道でも街の方の出身だったから、日常で通る道に熊が出ることに慣れてないんだよ。
「ちょっと、熊はねちゃったの⁉ うわああ、グロいいぃぃ。……おええぇぇぇ」
「秋人、ここで吐くな」
秋人、生々しいものとか苦手でさ。ちょっとグロい程度の映画なら見られるけど、実物は無理なんだって。あと、酒とかも吐くこと多い。
「ど、どうする?」
「とにかく熊に謝らねえとな」
「フフフ、ここは俺の黒魔術で、こいつを蘇らせて、配下にしてくれよう!」
「変なこと言うな、立夏。ほら、手合わせろ」
ああ、この時の立夏は、アニメのとかの影響かな、所謂中二病だったんだよ。黒魔術師って設定。雪兎を「マスター」って呼んで慕ってたな、この頃は。
「しかし、殺生なことをしてしまったな。罪の無い動物の命を奪ってしまうとは……」
フレッド先生は武士道とか仏教とかの日本文化に興味を持っていたから、その辺の単語に関しては日本人の俺達よりも詳しい。
「と、とりあえず、雪兎君に電話して……。おえええぇぇぇ」
「秋人、ほら、しっかりしろ!」
その後、雪兎の家の近くに住んでいるマタギのオジさんが助けに来てくれたんだよ。熊を軽トラの荷台に積んで持って帰った。
来る途中にもハプニングがあったけど、着いた後も色々あって……。まあ察しの通りなんだけどな。
まず、雪兎の家に着いてチャイムを鳴らしても返事がなかった。変だなって思ってドアに手を掛けてみると、開いてたんだよ。鍵が掛かってなかった。
「あれ、開いてる?」
「雪兎ー、入るぞー」
その光景を見た時、撫子さんと秋人が悲鳴を上げた。
玄関に、血まみれの雪兎が倒れていたんだよ。殺人現場さながらにね。
「雪兎っ!」
「マスターッ!」
「い、一体何が……。とにかく警察に……」
「あ、あれってもしかしてダイイングメッセージ⁉」
「えっ、どこ? ああ、これ……、って、何で『さねちー』って書いてあるのっ⁉」
「秋人……」
「貴様がマスターを殺したのかっ⁉」
「はあ⁉ 何でそうなるんだよっ⁉ 僕が犯人である訳ないだろ。ずっと君達と一緒にいたんだから、犯行は無理。刑事ドラマ風に言えば、アリバイがあるんだよ」
「いや、貴様は邪悪な魔術を用いてマスターを罠にはめたのだ!」
「そんな訳あるかっ! ……ていうか、これは困るよ、雪兎くぅぅん。君がいないとサッカー部はどうなるんだよぉぉぉ。……ん? あれ?」
パニックになって雪兎を揺さぶった秋人が何かに気付いたみたいで、そーっと脈を確認した。
「生きてるじゃないかっ!」
秋人のツッコミに、一同騒然。
すると、雪兎が血まみれのまま、むくりと起き上がった。
「えへへ~、びっくりした~?」
そう、生きてたんだよ。まあ、生きてなきゃ、今ここにいないけど。
「ふふふぅ、ドッキリでした~」
「って、ふざけんなよっ! 何がドッキリだっ!」
秋人はブツブツ文句垂れてたけど、暦さんになだめられて、一応は落ち着いた。
それから、玄関を片付けて綺麗な服に着替えてきた雪兎が、料理を運んできた。確か、その日は鍋だったな。あ、雪兎は料理上手いから、今日も期待してていいぞ。
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