ピーンポーン。

 玄関口で、先生がチャイムを鳴らす。

「いらっしゃ~い。開いてるよ~」

 家の中から雪兎先輩の声がした。

「お邪魔しまーす」

 扉を開けると……。


「がおーー」


 熊がいた。俺の二倍はありそうな、大きな熊。


「って、うわあああああああぁぁぁぁ。く、熊熊熊……」

 食われる食われる食われる食われる食われる……。

「せ、先生、く、熊がっ……、早く逃げ……」

「吉野、落ち着け。これ、ただの剥製だから」

「へ? 剥製?」

 ……剥製って、博物館とかにあるアレか?

 熊の剥製と妙に落ち着き払っている先生。

 俺の頭の中は徐々に冷静さを取り戻していく。

「ちぇー、やっぱり春ちゃんは驚かないか~。でも、吉野はナイスなリアクションだったよ~」

 熊の後ろから、雪兎先輩がひょっこりと出て来て、ニコニコ笑いながらそう言った。

「うんうん、初めて見るとこうなるよな。リアクションが初々しいなあ」

「って、先生はこうなることが予想できてたんですか?」

「まあ、雪兎なら十中八九やるだろうと踏んでたよ」

「何で先に言ってくれないんですか⁉」

「いやあ、吉野の驚いた顔が見たくて、ついね」

 テヘペロ、とか付け足しそうな口振りの先生。

「さすが、春ちゃーんっ! ドッキリ大成功~、いぇーい」

「イェーイ」

 パチン、とハイタッチをする大人二人。

「何が、イェーイ、ですかっ⁉ 本気で食われると思ったんですよ⁉」

 でもまあ、冷静に考えれば、いくら熊狩りが趣味の先輩の家の中だからって、生きた熊がいきなり出て来るのはおかしいと気付くけれど。

「あー、でもさあ、今回はちょっと手抜きだったよな」

 ドッキリにダメ出しをする先生。

「だよね~。剥製置いとくだけだしねぇ」

 大きな剥製を軽々と持ち上げ、カートに乗せて撤去していく先輩。

「……何か慣れてますね。いつもこうなんですか?」

 俺はドッキリの共犯者とも言える先生に問い掛けた。

「ああ、うん。雪兎の家にはサッカー部でよく行ったけど、その度に何か仕掛けてくるんだよな。毎回、趣向を凝らしてさ。あいつ、悪戯好きだし。……やっぱり、今でも最初のインパクトは忘れられないよ」


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