熊肉

「いただきます」

 雪兎が手を合わせている姿は、どこか祈るようにも見えて……。今までも気になっていたから、何となく聞いてみたんだ。思い返せば、それがマズかった。自ら地雷を踏んだ感じだよ。

「雪兎ってさ、いつもそんな風に『いただきます』って言うよな。何か祈ってるみたいっていうか……」

「ああ、これ? 僕達は他の動物の命を頂いているからね。命をいただきます、って意味だよ」

 これだけだと、ただの良い話だろ。問題は次。

「このお肉だって、元々は生きてたんだよ。そう、元は森を駆け回っていた、ク・マ」

 その熊がさっきはねた熊って訳じゃないんだけど、思い出しちゃったんだろうな。フラッシュバックみたいに。

「……うっぷ」

「ト、トイレ何処っ⁉」

「あっち~」

 俺と秋人は指差された方へ全力で走った。その後はまあ……。

 ちょ、吉野、そんな目で見るなよ。俺も秋人も街の方の出身だから熊肉を食す文化には縁がなかったんだ、ってのは言い訳にしかならないけど。人が作った料理を目の前にして吐き気を催すとか、失礼極まりないって思ってるよ。

 で、トイレから戻ったら、すぐ撫子さんに怒られた。

「失礼でしょっ。人が作った料理に対して」

「食文化は色々だからなあ」と暦さん。

「エスカルゴ食べた時の方が抵抗あった」と立夏。

「私は魚を生で食べる刺身の方が衝撃的だったぞ」とフレッド先生。

 他の皆は、けっこう平気だったみたい。

 

 ちょっと長く語っちゃったけど、俺の話はここまで。

 あ、雪兎の準備も終わったみたいだぞ。

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