先輩と俺 その弐  ~突撃! 冬月家の食卓~

新歓期過ぎて

ゴールデンウィーク。

 新学期特有の浮かれた空気が漸くなりを潜め、新しいクラスにも慣れてきたかなという頃。

 まあ、俺の新しいクラスでの立ち位置がどうなのかとかは置いといて。

 俺の最近の悩みの種といえば、サッカー部の新歓期の大失態である。

 大失態、というからには何かとんでもないことを仕出かしたのだろうと思うだろうが、厳密に言うと、それほどのことをした訳でもない。

 そう、それほど何かをしたということではないのだ。

 つまりは、新歓期、新入生をゲットする大事な時期に、俺は大して何もしなかった。

 じゃあ、何をしていたのだと問われれば、チラシを作って掲示板に貼り、部室の中で新入生が来るのを今か今かとずっと待っていただけと言うしかない。

 俺は甘く見ていたのだ。

 サッカー部なのだから、何人かは来てくれるだろう、と。

 部室で待っていれば、いつの間にか入部希望の新入生がやって来て、いつの間にか練習も試合も普通に出来るくらいになっていて、いつの間にかあの頃の栄光を取り戻せたりなんかしちゃったりして、という馬鹿げた未来図を描いていた。

 新入生は勝手に来るものではない。

 新入生が自分から来るくらいの魅力が今のサッカー部には無い。

 七年前の全国優勝の立役者、冬月雪兎に憧れて、意気揚々と入部届けを持って、期待を込めて部室へやって来る、そんな希少種は、もう一年前の俺くらいだったのだ。

 新歓期を終え、私立毬藻高校サッカー部は、新入部員ゼロという最低記録を残してしまった。

 どうしたものか……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る