本当の先輩

「あ、もしもし、さねちー? やっほー、僕だよ」

『あのさ、今会議中なんだけど。事ある毎に僕に電話するの止めてって、いつも言ってるよね。僕は君と違って忙しいの。社長なの。分かってる?』

「知ってるよ~。でさぁ、今僕は何処にいると思う?」

『アラスカだろ。高いんだからさ、国際電話は』

「ぶっぶ~、はずれ~。正解は~、僕達の母校、私立毬藻高校でした~」

『あ、そう。やっと帰国したんだ』

「僕達の後輩に会ってるんだよ。それでね、その子がね、僕のファンなんだって~。僕に憧れて、この学校に入ったんだって~。あ、さねちーのことはあまり知らないって。残念だったね、社長なのに」

『社長は関係ない。……ていうか、ちょっと、その子騙されてるよ。君の本性は……』


 俺は電話をしている雪兎先輩から少し離れ、先生を問い詰める。色々と気になっていることがあるのだ。

「あの、雪兎先輩についてなんですけど……」

「ん? 雪兎がどうかした?」

「いつも、こうなんですか?」

「そうだよ。昔から全然変わってない」

「……それで、雪兎先輩の趣味は?」

「え、ああ、熊狩りだよ」

 間髪入れずに答える先生。決定打だった。

「そこは、せめてサッカーって言って下さい!」

 嘘でもいいから。頼むからそう言ってくれ。

 先生は曖昧な微笑を浮かべるだけであった。

「……何で、最初から言ってくれなかったんですか?」

 俺が入部届けを手渡したその日から。

「う~ん、まあ言い出し辛くて。生徒の夢を壊しちゃいけないと思って」

「後から知る方が、ダメージは大きいんですよ?」

「ごめんな。……でも、もし俺が最初から『雪兎は実は熊狩りを趣味としている少し変わった奴なんだ』って言っても、お前が雪兎に憧れていた気持ちは消えないと思うけどな」

「でも、ショックは受けますよ」

「だけどさ、事実、雪兎は天才的なサッカープレイヤーで、俺達は七年前に全国優勝をした。これは変わらないだろ?」

「……それはそうですけど」

 先生は俺に諭すように言う。本当に教師らしく。

「歴史に名を残した偉人だって、私生活や性格まで完璧だったなんてことはないだろ? それと同じだよ」

 そういえば、俺は雪兎先輩について、サッカーに関すること以外、何も聞かなかった。俺はフィールドの上の雪兎先輩しか知らない。他は、何も知らない。

「本当の雪兎を知って、それでも雪兎が好き、ああライクの方な、って言ってくれれば、俺は嬉しい」

「……努力します」

 今は、それしか言えない。

「電話終わったよ~。ねぇねぇ、何の話してたの~?」

「何でもありません」



 俺は、雪兎先輩の一部しか知らなくて、勝手に憧れて、勝手に失望もした。

 だけど、これから「本当の雪兎先輩」を知っていけたらいいと思う。

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