旅の話

雪兎先輩が校舎内を見て回りたいと言ったので、学校探検をすることになった。春休みで人も少ないので、ちょうど良い。

 雪兎先輩と先生は思い出話に花を咲かせている。それにしても、よく喋る人だなあ……。

「懐かしいねぇ」

「春ちゃん、先生になったんだよね。よっ、春ちゃん先生! 今日も可愛いよっ」

「春ちゃん、よく図書館に入り浸ってたよね」

「いろんな国を旅したんだけどさ、やっぱり日本は落ち着くなぁ。言葉通じるしさ。ジェスチャーが間違った意味で伝わっちゃって、危うく殺されそうになったこともあったなぁ。あ、いや、大丈夫。テキトーにボコって逃げたから」

「僕的にはイタリア料理がベストかなぁ。パスタ~」

「本場のカンフーを学んできたんだけど、筋がいいって褒められちゃったよ~」

「ロシアの荒熊は怖かったなぁ。まあでも倒したんだけど」

「オーロラ綺麗だったよ。あ、でも、その次の日に北極グマに襲われちゃって災難だったなぁ。出血多量で死ぬかと思ったもん。本当、生きててよかった~」

 終始笑顔で楽しそうに話す先輩。途中、おかしなことが聞こえたような気もするけど。空耳だよな……。

「吉野はさ、熊食べたことある?」

 雪兎先輩からの質問。ん? 熊が何だって? 食べるとか言ってなかったか? いや、空耳に決まってるだろ。

「あの、すいまぜん、もう一度言ってくれませんか?」

「吉野は熊食べたことあるか、って聞いたんだよ」

 今度ははっきりと聞こえた。空耳じゃなかった。

 え、熊? 雪兎先輩が熊を食べ……。嘘だろ、こんなふわふわした王子様みたいな外見で、ゆるキャラみたいな可愛い声の人が、熊を食べる? ありえな……くない。

 そうだよ、日本にだって熊とか鹿とか兎とか猪とか食べる文化あるじゃん。マタギとかいるじゃん。自分と違う文化を否定するのってダメだろ。異文化交流、大切!

「……あ、いえ。熊は食べたことありませんけど」

「じゃあ、今度食べてみなよ。僕が狩ってくるからさ」

「……遠慮しときます」

 熊を買ってくる? 熊って何処で売ってるんだろう……。

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