第154話

 案内された場所は、漁船が集まる港から少し離れた場所だった。

 

 「ここをねぐらにしたシーサーペントが、……漁場にも悪さしにくるんだ」

 「悪さをしにくる、か」

 

 老いた漁師が言ったことを思わず繰り返す。深刻そうな雰囲気から、子供のいたずらかのような言い回しが出てきたものだから、思わずだった。

 

 「……ああ、奴にとってはじゃれついている程度のものなのだろう」

 「ふむ、なるほど。大きな魔獣に懐かれてはたまったものではない、か」

 

 規模は違えどそうしたことは前の住処でもあったな。体の大きさも意思疎通の方法も違う生き物同士では、関わることそのものが悲劇となってしまうこともある。

 だからこそ、この漁師はさきほども追い払えばいいというようなことを言っていたのか。

 

 「それで、そのシーサーペントというのは――」

 

 どこかと聞こうとした吾輩だったが、その質問の答えは同行した人間から返ってはこなかった。その前に当の魔獣が顔を出してきたからだ。

 

 「なんと……!?」

 

 誰が口にしたのかはわからんが、驚愕する声が聞こえた。

 ここには魔獣シーサーペントを探しに来たのであるから、それがいて当然ではあるのだが、その威容にはそれだけの気配があったということだろう。

 吾輩とて、怯えてこそいないが驚いていないといえば嘘になってしまう。

 

 我々が立っている場所は海面より上であるにもかかわらず、体の半ばからを水上に出しているシーサーペントはサファイアが嵌まり込んだかのようなその目でこちらを高い所から見下ろしていた。

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