第153話
『そのにょろにょろした子を追い払えばええの?』
漁師やナディアたちに案内されつつ移動していると、水精霊がのんびりした調子で確認してきた。
「海中にいる魔獣だという話だからな。すまんが力を貸してもらうことになる」
『お安い御用や~』
一騎当千の吾輩とても、やはり陸生生物であるからな。精霊術という手段があることは素直に心強いのだ。
「大丈夫か? この毛玉。独り言を言い出しやがったぞ」
まだ不満そうな方の漁師が何やら失礼な目線を向けてきた。
「大丈夫だって。これがタヌキさん流の精神集中ってもんだ」
だが吾輩が口を開くよりも前にナディアが意外と強い調子で言い返し、それで漁師は黙って前に向き直した。
先ほどのチンピラを追い払った時のことを、ナディアは何やら勘違いして捉えていたようではあるが……、好意ではあるだろうからここは素直に感謝しておこう。
「ふむ、ありがとう」
「っ! いや……その、なんだ。気にすんなぃ!」
歩きながらではあるが、ナディアの顔を覗き込むようにして感謝の言葉を言うと、顔を赤くしてうろたえている。
先ほどの言い返した時にそれほど興奮していたということか? あるいは、その海の魔獣とやらに向かうことをそれほど不安に感じているということか……。
この漁村マーリアは吾輩の住処ではないが、あの屋台通りではまだまだ食べ歩きがしたいからな。
「まあ、ここは吾輩に任せておけ」
だから、喉を見せるほどに顔を上げ、殊更勇壮な態度で安心させてやったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます