第151話
「あの魔獣が今朝からまた姿を現してな。はっきりいってお手上げだ」
「にょろにょろ野郎め!」
「……奴は賢い魔獣。我らに対抗手段がないことをわかっている」
つまり、この港付近になにやらにょろにょろとした魔獣が居ついてしまって漁に出られない日が多いということらしい。
なるほど、ナディアが商売の危機だと言っていたのはそういうことか。あのあたりの屋台も露店もここで獲れる海産物が頼みであろうからな。
ナディアに聞かれて答えていた漁師の中でも代表格らしい三人組だが、一様にその肩を落としている。威勢のいいことを言っている者にしても、そうでもしなければ心が折れてしまいそうといったところだろう。
「困っているようなら、吾輩が手を貸すのもやぶさかではないぞ」
なにせまだ一品しか味わっていないのだからな。堪能し尽くす前にあの屋台通りがなくなってしまっては、こちらの方こそ困るではないか。
「「「……」」」
三人組が揃って無言になる。……ふむ、いかにも不安そうな目つき。人間というのは一々決断力に欠けるから困るな。
「このタヌキさんは、大した腕っぷしなんだ! 精霊術まで使えるってぇんだから私も驚いたくらいでよ」
ナディアの言葉に黙っていた三人組は黙ったままで何やら考え込んでいる。互いにちらちらと目配せもしているようだが、あれで意思疎通がとれているのならたいしたものと言わざるをえない。
「……それが本当なら、頼みたいことがある」
三人組の中でも老いた者が、なにやら重々しく口を開いて言ってきた。吾輩は先ほど既に手を貸すと言ったのに、何を回りくどいことをいっているのだ、こやつは。
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