第150話

 ナディアに案内されてきたのはマーリアの漁港で、そこにはいかにも威勢の良さそうな人間どもが集まっていた。

 とはいえ、あやつらはおそらく漁師なのであろう? であればこんな日の高い内に陸でたむろしているものなのか? ……いや、漁業は早朝にするものであったかな? なにやら夜中に船で出ていくものだったという記憶もあるが。

 

 まあ考えるだけ無駄であるな。記憶といっても、かつての住処にてたまに訪れていた中華料理屋で見たテレビの情報だ。断片的な上にあいまいで、頼みにするようなものでもあるまい。

 

 「みんな、聞いてくれ!」

 

 ナディアが声を上げると、その集まっていた連中が一斉にこちらを向いた。

 全員焦っていた様子だが、その表情には驚きも混じる。

 

 「ナディア? なんだ……その茶色いのは」

 「悪いが遊んでやる余裕なんてないぞ」

 「……」

 

 なかでも歳をとっていそうな人間が声をかけてきた。少なくとも好意的という風ではないな。それにどうにもその不機嫌な空気は吾輩の方を向いているように感じる。

 

 「ここに集まってるってことは、また出たんだろ?」

 「…………そうだ」

 

 だがナディアはそれには取り合わずに何かしら質問をした。そしてそれを肯定する返事があったが、その表情は苦々しいとしか表現しようのないものだった。

 ふむ、何かはわからんが、確かになにかしら困りごとがあるようだ。

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