第126話
「なるほど、そうですか。安心しましたよ」
とはおいしそうにカップに入った茶を飲むトジャの言だ。
両の肉球を的確かつ繊細に使う吾輩に及ぶほどではないが、このトジャも中々に上品な仕草でカップを傾けていた。森族の中でもそれなり以上の地位にある家柄というのは本当であるようだ。
とはいえ、食事の仕草など結局は個性でしかないが。上品に楚々と食そうが、豪快にかじりついて喰らおうが、本人がうまいと感じるのが一番の礼儀というものだ。
余裕のある上位存在であるところの吾輩は、そこからさらに場の空気というものも読むものではあるがな。
しかしどうやら、この場においてはトジャのこの仕草というのは空気を読めてはいなかったらしい。
「は、はは……、安心ですか、それは良かったですな……」
そう返すバルドゥルの机の下で膝に置かれた手は、握り込んでぷるぷると震えていた。
それが机越しに透視できた訳ではないであろうが、それでも察しくらいはついたのか代わりにシャジャのほうが顔色を青くする。いや、さっき出会った時からずっとそうであったような気もするが。
「申し訳ありませんでした! 本当に!」
この初対面の森族については、謝っている姿しか見ておらん気がする。居た堪れないのが八割に鬱陶しいのが二割といったところだろうか、正直な気持ちとしては。
「あ、いやいや! あなたにその様な態度をとらせるつもりではっ」
さすがに思わぬ展開であったのか焦るバルドゥルに、それでも謝っているシャジャ。茶はそこそこに菓子へと移っている吾輩と、少し困ったなとでもいいたそうな表情をしているトジャが、すっかり蚊帳の外みたいになってしまった。
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