第125話
吾輩の鷹揚な態度によって、そして過剰なくらいに誠実なシャジャの様子もあり、吾輩らがあの広場に到着した時のような変な空気は随分と和らいでいた。
とはいえ、吾輩とトジャの間で起きた出来事というのはそれほど影響があったのか、それでも不穏な雰囲気が微塵もないということはなかった。
自分とは直接関係がないというのに、人間とはかくも共感性の生き物なのだなと感じた出来事ではあった。であれば、その共感性を発揮して吾輩の意を汲んで欲しいものであるが。
そうした状況であったものだから、不測の事態というものを一応気にした吾輩は場所を移すことを提案した。
その考えはバルドゥルにとっても同じであったようで、すぐに鍛冶屋へと行くことになったのだった。まあ、吾輩とバルドゥルにとっては行くのではなく戻るのだが。
ちなみにノルトールは用事があるからとどこかへと行ってしまった。そもそも鍛冶屋へは温泉にある小屋のことで何か相談に来ていただけのようであったし、それが済んでいるのであれば長居するものでもないか。……あるいは、気をつかったのかもしれんが。あの商人はおっとりしているようでいて、中々に目端が利くようであるからな。
「先ほどは、あのような往来で突然に申し訳ありませんでした……」
鍛冶屋の応接室に来るなり、シャジャはまた頭を下げていた。さっきは確かに吾輩は驚いたし、バルドゥルも戸惑っていたであろうが、この人間はどうにも気にしすぎるきらいがあるな。
「広場でのことは気にしておらんし、トジャのことも別にわだかまりなどないぞ?」
「……そうです。タヌキはこのようにおおらかですから」
吾輩が何度目ともわからん「気にしていない」宣言をすると、隣のバルドゥルもそれに続く。
若干のためらいが言葉に感じられたが……なぜこいつが吾輩よりも根に持つのだ。まあ飲み込んだので気付かなかった振りをしておいてやろう。
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