第123話

 「はっ! 申し訳ございませんでした!」

 

 後ろから出てきてトジャを怒鳴りつけていた人間が、こちらの視線に気付いた仕草の後で深々と頭を下げる。

 いや、吾輩がじっと見ていたのは「お前も頭を下げろ」という意味ではなく、「誰だ?」ということだったのだが……。

 

 下げた頭の側面には他の人間よりも長く尖った耳があり、薄緑の髪色もトジャと同じだ。これは森族と呼ばれる種族の特徴であるらしい。とはいえこの人間がトジャに似ているとはいえ、違う部分ももちろんある。トジャの髪がぼさぼさであるのに対して、この人間の短い髪はきれいに整えられているし、この過剰なほどに丁寧な態度も傍若無人なきらいがあるトジャとは随分と違う。

 

 そのトジャはというと、先ほど怒鳴られてから大人しく頭を下げている。心から謝罪の気持ちがあるような態度ではないが、さりとて嫌々従っているという風でもない。

 どうやらこの新しい方の薄緑髪は、トジャにとって逆らえない相手であるということのようだ。

 

 「それで……」

 

 どうにもこのままだと話が進まなさそうだと思って、吾輩は口を開く。吾輩の気も進まないが……仕方がない。

 

 「吾輩に何の用なのだ? いや、それ以前にそなたはどこの誰だ?」

 

 小声で「ですよねぇ」などと言ってへらへらとしているトジャの隣で、下げていた頭を上げた見知らぬ人間は顔いっぱいの表情で驚きを示している。心底からそこには思い至らなかったようだ。

 

 「私はキュピィの森の族長の娘。シャ=ジャ・キュピィと申します!」

 「私の姉なんです」

 

 はきはきと自己紹介してくれたシャジャの隣で、やはりへらへらとしたトジャがそう付け加えてくれた。

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