第121話
「いったい何なのだ、吾輩に用でも……?」
わからぬことを聞こうともせずに知ったふりをするのは愚か者だ。だから吾輩は「用でもあるのか?」と質問をした。
この農具を持った若い人間は先ほど「どうしたものだか」と口にしていたからな。何かが起こってそれにどう対応すれば良いかわからぬということだろう。であれば、その起こっていることが何かを教えてくれさえすれば、吾輩がこの勇壮にして精緻な前脚を貸してやることは吝かではない。
それこそが上位存在の責務というものであるし…………この町の人間とは懇意にしているからな。
「いや、用があるのは俺じゃなくて……って、すぐにどこか別の場所へ!」
聞いてやったというのに焦るばかりで要領を得ない。
「だから何のことだと聞いている。言っていることがわからないぞ」
努めて冷静に、重ねて尋ねる。相手が慌てている時こそ、こちらが落ち着いた態度を見せなければな。
……と思っていたのだが、どうやら向こうはそれで焦りが増したらしく、ついには吾輩を抱えようとでもしたのか、両手を差し出して近づき始めた。そしてそれを見てバルドゥルが間に入って宥めようと動く。
「おお、タヌキさんではないですか! 探していたのですよ、私たちは――」
だがその農具を持った村人が吾輩のところまで来ることも、バルドゥルがその者を止めることも、どちらもなかった。その前に聞こえた声に全員の動きが止まったからだ。
姿を見せるなり何やら早口に話し始めた薄緑色のぼさぼさの髪と長い耳が特徴のその人間はトジャだった。
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