第120話
向かった先の広場ではちょっとした人だかりができていた。といっても武者集団の修練ではなく、この町の住民たちが集まっている様子だ。
鍛冶屋からここまではそこそこ離れているにもかかわらず、騒ぎが吾輩たちの耳へと届いていた。故に、すわ大事かと動揺もしていたものだが、なんのことはない閑静な時間帯であるためによく響いていたというだけのことだった。
つまりは、ざわざわとしてはいるものの、それだけのことだったといえる。
「なんの騒ぎだ?」
バルドゥルが近くにいた者をつかまえて尋ねている。一緒にここまできた吾輩とノルトールは広場の中心へと目を向けるものの、当然人に遮られて見通せない。
「バルドゥルさん! それが聞いてくれ、俺たちもどうしたものだか……って、あ!」
聞かれて話し始めた若い人間は手にしていた農具を軽く振って悩みを示しているような仕草だったが、その視線がさまよってこちらに向いた瞬間に露骨に驚いた。
「なんだ?」
「……?」
バルドゥルが振り向いて不思議そうにして、ノルトールも隣で首を傾げている。だがそのように頼りにされても吾輩だってわからない。いかに上位者たるタヌキであっても、心の中までは見通せない。つまり結局はこの者に聞くしかないということだ。
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