第119話
その様に吾輩がバルドゥルと話していると、ふと外が騒がしいことに気付く。
「……む?」
「なんだ?」
吾輩が首を傾げると、隣ではバルドゥルもその厳つい顔を斜めにしていた。
「ごめんくださーい」
と、何者かが訪ねてきた声が聞こえる。聞き覚えのある声だと思っていると、バルドゥルは吾輩の方に軽く断りをいれてからのそりと動き出す。声のした方……、この鍛冶屋の玄関へと向かうようだ。
何という訳でもないが、単純にこの聞き覚えのある声は誰のものだったかなと気になった吾輩も、大きな背中を追ってとこぽこと歩いていく。
「おや、タヌキ君が来ていたのですね。これはお邪魔しました」
「……いや、問題はない。それより何の用だ?」
「ええ、温泉小屋の扉がですね――」
玄関に辿り着くと、訪問者の言葉にバルドゥルがむすっとした顔で対応していた。用事を話す言葉が聞こえたこともあって、吾輩はすんなりとそれが誰だったか思い出す。
「おお、温泉の管理人だったか」
その訪問者の顔を確認して、ヒゲの角度を少し下げる。吾輩が精霊たちと協力して作り上げた温泉をいつもきれいに保っている管理人だったからだ。丁寧な仕事をする者には相応の態度で接せねばな。
「外では何かあったのか?」
だが簡単な用事をすぐに終えたその管理人――ノルトールといったか?――が吾輩に何事かを言うよりも、バルドゥルの質問が早かった。とはいえ確かに、吾輩も外で何やら騒がしくしていたのが気にはなっていた。
ノルトールは開いたままの扉から外を見るようにしてから、こちらへと視線を戻して口を開く。その表情は眉尻を下げて不思議そうにしていた。
「私もわからないのですが……、広場の方でざわざわとしていましたね。見に行きます?」
……ふむ、広場というとアイラやゲイルが属している武者集団がよく訓練をしているあそこか。あの向こうには町の門くらいしかなかったと思うが、はて。
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