第117話
重要なことであるから先に述べておくと、バルドゥルは非常に美味な菓子を用意していた。
「はぐっ……ぱく……もぐもぐ」
「喜んでくれて何よりだ」
それに変な気の使い方をして大量に用意するのではなく、質の良いものを少数にしたことも称賛したい。いかに勇猛な吾輩とて、この体に収まる程度しか一度には食せないのだから。そもそも甘味というのは大食するようなものではない。……まあ、時と場合によるとは言い添えておくが。
ここはバルドゥルの鍛冶屋で、いつかの部屋だった。テーブルが真ん中にあって、椅子が四つ用意されているそこは応接室であるようだ。対面での言葉のやり取りを重要視する人間どもらしく、バルドゥルもこの部屋はきれいにしている。だからこそ、甘味を堪能するにも居心地いいというものでもあるから、この点においては人間を愚かといったのを取り消さねばなるまい。
「それにしても、この間は驚いた。タヌキにも悪かったなぁ」
吾輩が菓子を食べ終わるのを見計らって、バルドゥルは額に皺を寄せて言ってきた。その表情はトジャのことを苦々しく思っているというよりは、ただこちらに謝罪したいというもののように見えた。
ふむ、年経た人間というのは価値観が凝り固まって謝罪や反省が苦手になるという印象があったが、これはこちらもまた頭が固くなっていたのかもしれんな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます