第117話

 重要なことであるから先に述べておくと、バルドゥルは非常に美味な菓子を用意していた。

 

 「はぐっ……ぱく……もぐもぐ」

 「喜んでくれて何よりだ」

 

 それに変な気の使い方をして大量に用意するのではなく、質の良いものを少数にしたことも称賛したい。いかに勇猛な吾輩とて、この体に収まる程度しか一度には食せないのだから。そもそも甘味というのは大食するようなものではない。……まあ、時と場合によるとは言い添えておくが。

 

 ここはバルドゥルの鍛冶屋で、いつかの部屋だった。テーブルが真ん中にあって、椅子が四つ用意されているそこは応接室であるようだ。対面での言葉のやり取りを重要視する人間どもらしく、バルドゥルもこの部屋はきれいにしている。だからこそ、甘味を堪能するにも居心地いいというものでもあるから、この点においては人間を愚かといったのを取り消さねばなるまい。

 

 「それにしても、この間は驚いた。タヌキにも悪かったなぁ」

 

 吾輩が菓子を食べ終わるのを見計らって、バルドゥルは額に皺を寄せて言ってきた。その表情はトジャのことを苦々しく思っているというよりは、ただこちらに謝罪したいというもののように見えた。

 ふむ、年経た人間というのは価値観が凝り固まって謝罪や反省が苦手になるという印象があったが、これはこちらもまた頭が固くなっていたのかもしれんな。

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