森族の再訪、編
第116話
「なべて世はこともなし、であるな」
ある日の朝食を味わった後で、吾輩はふとそんなことを呟いた。
「なにー?」
横で見ていたエリスが首を傾げている。以前から吾輩に食事を持ってきてくれるのはこのエリスであったが、あの騒動以降は吾輩の近くにいたがることが多少増えたようにも感じる。
町の人間どもが大騒ぎをしたからな。あの時吾輩がただちょっと散歩をしていただけだというのに、エリスも不安に感じてしまったのだろう。
「今日の朝食もうまい、といったのだ」
「よかったね!」
「うむ、良いことだ」
そうそう、その騒動のある意味原因というか中心であったトジャであるが……、あやつはあっさりと住処へ帰ってしまった。また間を空けて吾輩に何かをしにくるかとも警戒したものだが、さすがに反省する心というものも持っていたらしい。
探求心が他者への思いやりを上回ってしまうような、なんとも困った性分の人間ではあったが、決して悪人ではないということは、直接やり取りをしたからこそ吾輩にもわかっている。だからこそ、あの無礼な振る舞いについても謝罪を受け入れて許したのだ。
トジャの件といえば……、あの時バルドゥルが吾輩に対して「お詫びに甘い菓子を用意する」と口にしていたのは当然忘れてはいない。
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