第113話
その日の訓練はとうに終わっていたために、ジャスパーが広場へと来た時には騎士団の姿はなかった。だがアイラが答えたように、団長のシエナはそこに残っていた。
ここには初めに話を伝えに来たバルドゥルと騎士団のゲイルとアイラ、そして心配して先行きを知りたがったエリスがついてきている。
そんな一行が近づいてくれば、おおらかな性格のシエナといえどもさすがに何事かと身構えもする。そのことがシエナがちょうど話をしていた相手に割り込むような形となったために、ジャスパーは配下である騎士団長より先にそちらへと顔を向ける。
「すまんな、リット司祭。シエナと話をさせてもらっても構わないか?」
元よりそれほど偉ぶるような性分ではないジャスパーだが、そもそも教会というのは貴族であってもそう邪険にできるような勢力ではない。故に左遷同然に地方へと飛ばされてきた司祭に対してでも、ある程度気を使うのが普通だった。
「ええ……それは大丈夫ですが……」
ただならぬ雰囲気を感じ取ったリットが身を引きつつも、興味深そうに耳を傾ける。そして聞かれて問題のあることとも考えなかったジャスパーは、そのままシエナへと事情を伝えた。
「――ということだから、騎士団から捜索に長けた者を何人か……」
そしてジャスパーからシエナへ具体的な指示に話が移ろうというところで、聞いていたリットの様子が激変する。その前の時点でリットの目から光が消えていることにアイラやバルドゥルは気付いていたが、ジャスパーとシエナは気にもしていなかったために身構えてはいなかった。
「この世の終わりですっ!!」
あまりにも悲痛で、そして単純に大きすぎる声でリットが叫んだために、不意打ちでそれを受けたジャスパーとシエナがびくりと震える。厳つい顔のジャスパーと長身でがっしりとしたシエナがそのように振舞うのは滑稽にも見える光景だったが、それを笑える者もいない。
「すまんっ、俺のせいでぇ……!」
「師匠―っ、どこっすかぁーっ!」
どころか、取り乱すリットに触発されて、ここまで静かについてきていたバルドゥルとアイラも騒ぎ始める。普段は冷静沈着な副団長であるゲイルもおろおろとするばかりであり、ジャスパーとシエナにしても町の有力者たちが取り乱す様子に動揺していた。
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