第109話

 「知りたいことが多いのなら、バルドゥルに実験農場を案内してもらえば良いだろう」

 

 そう言って吾輩は乗っていた椅子を降りた。

 先ほどバルドゥルから提案していた内容に水を向けたが、単に面倒になってきたから話を切りたいという気持ちもある。

 そもそも吾輩は学者ではないのだから、見えて話せているものを何故と問われても説明できる言葉を持ち合わせてはいない。

 

 「そうですね、いきましょう」

 

 バルドゥルも調子を合わせて立ち上がる。あやつはあやつで途中から居心地悪そうにしておったから、吾輩が動き出したのはこれ幸いといったところだったのだろう。

 

 だが、当の本人であるトジャはまだ足りないと思っていたようだ。

 

 「あぁ……待ってください! 他にもまだ聞きたいこと、知りたいことがっ!」

 「むぉっ!? 何なのだ」

 

 椅子から床に降りていた吾輩の前で、ずさっと音をたてるような勢いでトジャは膝と手を床に付ける。

 顔をちょうど吾輩の前に持ってくるためであろうが、これは人間が言うところの“土下座”の態勢ではないか。知識欲や探求心といえば聞こえは良いが……過剰に必死な様子は狂気と見分けがつかん。

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