第105話

 「眠っていたところにすみません。ちょっとこちらのバルドゥルさんから聞いた内容に確認したいことがあったものですから……」

 

 申し訳なさそうで控えめで落ち着いた声で、そして伝えるべきことは簡潔に。先ほど吾輩を揺さぶってきたのと同一の人間とは思えんほどの変わりようだ。

 ……いや、思えば広場で見た時にも落ち着いているのかと思えば不気味で不快な動きをしてきたりと、二面性はあったな。

 吾輩の幅広い知識によると、確かこういうのを“まっどさいえんてぃすと”と呼ぶのであったか。

 

 「精霊の話でしたね、ト=ジャさん」

 

 腕を組んだバルドゥルが仕切り直すように言った。……ふむ、精霊について聞きたいのか? 人間はどうもその辺は深く気にしていないようだと思っていたのだが。

 

 「よかろう……」

 

 言って吾輩も席に着く。バルドゥルがトジャと話していたテーブルには向かい合って二つずつ、計四つの椅子があったから、バルドゥルの隣のあいていた椅子の座面に立ち、テーブルの上に前脚を置いて斜め向かいのトジャと向き合う体勢となる。

 

 「器用ですね」

 「おぉ……なんとかわ……ん、ごほっ」

 

 トジャは吾輩の身のこなしを褒め、バルドゥルも何やら感極まって言葉を詰まらせていた。おそらくだが、人間の様式に合わせて話を聞こうという吾輩の度量の広さに感銘をうけたというところだろう。

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