第101話

 「はぐ……もぐ……うむ、うまい」

 「そうか、それはよかった」

 

 もてなしてくれたバルドゥルへの礼儀として――率直な感想でもあるが――菓子がうまいと褒めると、バルドゥルはこちらへ手を伸ばしたり引っ込めたりとしていた。何をしているのだ、こやつは……? 吾輩の頭頂部や尻尾に埃でもついていたのか……?

 

 そうしているうちに、そこそこの時間が経っていたらしく、待ち人が到着したようだった。

 

 「あの……、こちらが鍛冶屋さんであっていますか……?」

 「お、おう! いや、はい!」

 

 ぎこちない所作でバルドゥルが出迎えに行き、中の客間で菓子を楽しんでいる吾輩の元へと戻ってきた時には、意外な人物を連れていた。

 

 「おや、また会いましたね! 喋る毛玉さん」

 「……む、トジャであったか」

 

 それはトジャ何某と名乗った、あの森族の変人だった。

 

 「とすると、バルドゥルが待っていた偉い・・学者というのはそなたであったか」

 「え~! 偉いだなんて照れますね」

 

 長くて先の尖った耳に触れながらへらへらと笑うトジャだったが、吾輩は真顔だ。この真摯な瞳を見るがいい、一切の揺るぎもなくトジャを見ている。

 吾輩の口の中を不躾に覗き込もうとした失礼者に対して“偉い”と称されるなどとおかしなことだなと嫌味をいったつもりが、このように返されればこんな表情にもなるというもの。

 

 「さ、さすがはタヌキだな……、まさか友人だったとは」

 

 何やら驚いているバルドゥルだが、心外だぞ。吾輩はトジャを知っているだけであって、友情を育んだ記憶など一切ない。

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