第94話
温泉で出くわしたバルドゥルに、何やら面倒なことを頼まれてから、いくらかの日数が経過していた。
いつもの吾輩であればバルドゥルからのそうした話など忘れてしまっていそうなものであるが、なぜはっきりと覚えているかというと一生懸命に頼み込まれたから……ではもちろんなく、心底面倒だと思ったからだ。
嫌なことほど頭から離れぬものであるな、うむ。
「こういうときは、うまいものでもかじるに限る」
そう思い立って吾輩は寝床を離れる。今でも日々エリスが持ってきてくれる食事のおかげで飢えることはないが、それはそれ。
生き物というのは食べるために生きている訳ではないが、さりとて生きるためだけに食べる訳でもない故に、うまいと感じることは大変有意義なことなのだ。
つまり、露天商が並ぶ広場へ行って、人間どものために菓子の味見でもしてやろう。
そうして我が心の寛容さに内心で打ち震えながら歩いていくと、ほどなく喧騒が耳に届き始める。
が……、どうやらいつものにぎやかさというだけでなく、何やら常にない騒がしさがあるようだ。
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