第93話

 しばらくがっしりとした体を縮こまらせて気まずそうにしていたバルドゥルだったが、吾輩が湯から半分出たところで慌てて口を開く。

 

 「学者だ、偉い学者が来るって話をだな」

 

 またその話か。さっきも言っていたが……、ふむ。

 

 「最近聞いた気もするが……」

 「そう最近だ。タヌキがアイラと煮え滾る泉のことを聞きに来た時のことだ」

 「……おお!」

 

 そう言われてみればそのような気がしてくるな。

 

 「実験農場では世話になったからな。あの時教わった骨や木のくずの話に興味があるそうだぞ。なんでも森族のすごい方だとかなんとか……」

 「なんともはっきりとせん話だな。その言い様だと名前も知らんという雰囲気ではないか」

 

 吾輩を尊敬している話しぶりなのは良いことだが、結局バルドゥルは何がいいたいのだ?

 

 「俺もまだ騎士団のゲイル副団長から話を聞いただけでな、詳しいことはまた今度はっきりと決まり次第ということだ。ということではあるんだが、その時にはだな……」

 「む、吾輩に頼みたいことでもあるのか?」

 

 揉み手でもし始めそうな様子でバルドゥルは吾輩を見ている。はて、人間同士のそのような話し合いに吾輩が知恵を貸すような場面などあるか?

 

 「そうだ、実験農場の助言者として立ち会って欲しいのだ。色々とタヌキから教わったことだし、俺だけだと説明など十分にはできんと思ってな」

 

 いや……、吾輩がいても説明などできんぞ? 何せ吾輩にしても精霊たちから教わった知識を右から左に伝えただけだというのに。

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