ぽんぽこ温泉、編

第66話

 後ろ脚が……痛む。そう、吾輩はあの巨樹魔獣との戦いで多大な犠牲を、払ってしまったのだ。

 …………筋肉痛という、多大な犠牲を。もしかしたら関節まわりの筋も痛めているかもしれない。

 

 人間というのは愚かだ愚かだと今日まで思ってきたものであるが、今ほど強く思ったことはない。四本の脚で歩けば良いものを、何故二本脚で立って歩こうなどと考えたのか。

 慣れぬ動き方で戦闘などしてしまったものだから、どうにも変な力の入れ方をしてしまっていたらしく、吾輩ともあろうものが寝床で無様を晒している。

 

 「師匠~、仰向けであんよをぴくぴくさせて、どしたんっすか? かわいいっす~」

 「やめろ、アイラ! つつくな!」

 

 まったく! なんなのだアイラは。長めの赤い前髪の下にあるくりっとした目は普段から好奇心旺盛な性分を表すようにきょろきょろとしているが、今日はどうにも浮かれているようにきらきらとしておる。

 

 「筋肉痛なのだ、放っておいてくれ」

 「あぁ……お散歩でもしすぎたんっすか? マッサージでもします?」

 

 アイラが吾輩に打ち解けているのは良いことなのであろうが、この扱いは何か違う気がするのだが……?

 まあ良い、寛大な吾輩はその程度のことにこだわりなどしない。

 

 「いらん。……こういう時は湯治でもするに限るのだがなぁ」

 「とうじ? ……っすか?」

 

 なんだ、知らないのか。それはもったいないな、あれは良いものだぞ。

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