第50話
ひやりとした寒さを感じて、次に肩でちくりとしたくすぐったさを感じた。毛が肩に掛かって……おや? なぜそうなる? これではまるで吾輩が直立しているかのような……。
「わーすてき」
「ひ、ひひ、人!?」
ぱちぱちと手を叩くエリスが見下ろす位置にあるのは、『かのような』ではなく、実際に吾輩が“立って”いるからだ。そして頭以外にはほぼ毛がなくつるんとした肌で、直立しているのはリットの言う通り人間にしか見えないだろう。頭に乗せたのとは別の葉っぱがいつの間にか吾輩の体を覆い、この町の人間とはまた違った雰囲気の服へと変じていた。
「……ふむ。ふむ?」
前脚、いや、両手をわきわきと動かし、両脚をぱたぱたと動かして、やはり目の前の二人と同じような姿形になっていることを確認する。
「肩までの長さの無造作ながらどこか気品のある茶色の髪に、理知的な黒い瞳、そして芸術品のように整った中性的な顔。背はやや高く、細身ではないが大柄でもなく、異国情緒を感じる不思議な出で立ちは、その者の神秘性を引き立てる……」
リットが呆然とした表情でこちらを凝視し、何かの文言をそらんじている。
「きゅーせーのゆうしゃさま!」
「はい……」
む、そうか、この町の人間が立派だと感じるような姿として、吾輩はどうやら以前ちらりと見た絵本に描かれていた人物を思い浮かべたらしい。服はともかく剣までは葉っぱで再現することはできなかったようであるが。
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