第44話
現実であってほしくないからといって、嫌な予感から目を逸らすのは臆病な愚かものだ。それが恐ろしければこそ、直視して見極めなければならぬ。
という訳で、吾輩は実験農場へと訪れていた。今はバルドゥルはいないようだが問題はない、用があるのはあの小さなヒマワリ――地精霊――だからだ。ここまで来なくても呼べば良かったのかもしれないが、質問をしたいのは吾輩の方だからな。吾輩は高貴であるからこそ、礼儀知らずなことはできぬ。
『おや、これはタヌキ様ではありませんか。どうされました?』
と、向こうの方から顔を出してくれたな。……文字通りに、土の中から顔の付いた小さなヒマワリがにょっと出てくる光景には少しだけ驚いて尻尾の毛が逆立ってしまったが。
精霊というと自然の全てに宿るようなイメージを勝手にしていたが、こうしたお気に入りの場所に普通に“居る”ものなのだな。思い出してみれば火精霊はよくバルドゥルの鍛冶場にいるようであるし、風精霊は騎士団の訓練場所や吾輩の住処でよく見かける。
おっと、そんなことより聞きたいことがあったのだ。
「この間の作物が弱っていた件だが……、原因はやはりわからぬか?」
『大地の魔力の翳りのことでございますね? 近くで何かが大量に吸い取っているかせき止めているということなのでしょうが……、やはり原因までは』
プライドが高い地精霊だけに、悔しそうにしている。しかし吾輩も困らせようとしに来た訳ではない。
「魔獣が原因ということはあるか?」
これを確認しておきたかった。先ほど聞いたジャスパーと誰かの会話。あれは何かとの戦いの準備を進める内容だった。人間はよく同族同士で争うものであるが……、それであればもっと違うひりつき方をするものだ。よって今回はおそらく厄介な魔獣がでたということなのだろうと当たりをつけていた。
『もちろん、可能性のひとつではございます』
「近くに何やら厄介なのが出ているそうなのだ。それではないか?」
相変わらず会話が回りくどい地精霊を相手に、丁寧に答えを求めて言葉をつないでいく。
『この町にはそのような魔獣はおりませんね』
「いや、おそらくは町の外だ」
外は町中よりも大地が剥き出しだ。地精霊であればその上で起きていることは把握できているのではないか。
『外となるとわかりかねます。遠すぎる“わたくし”とは繋がりもまた遠くなるのです』
「……ふむ、そうだったのか」
同属性の精霊同士であれば同一存在として距離を超えて情報共有ができる、というような都合が良いものではなかったらしい。となると、吾輩が自ら動く必要があるか。
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