勇者降臨、編

第43話

 ここでの生活にも馴染んできた。今日もエリスが持ってきてくれたうまい食事を堪能しながら、ふとそう思う。

 かくいうエリスは今日のお勉強をこなすため、例の“爺”なる人間に連行されていった。そうして物思いにふけりたくなる静けさの中で食べている訳であるが、こうした日常を日常と感じて慈しむあたり、吾輩は本当の意味でここを新たな住処と認識するようになったのだろう。

 そんなセンチメンタルな思いを堪能していた時間は、残念ながら食べ終わってすぐに終わってしまう。

 

 「――間違いないのか?」

 「はっ。斥候による確実な情報です」

 

 行儀の良い吾輩は皿を返しにエリスが住む屋敷までくる訳であるが、その時ジャスパーというあの厳つい人間が誰かと深刻そうな声で話すのが聞こえたからだ。

 屋敷に入ってすぐのこの場所から、声の主は見えないものの、内容まではっきりと聞き取れるからには遠くない場所で話しているのだろう。……もしくはジャスパーの声がでか過ぎるだけか、どちらかだろう。

 

 「編成は任せる。なるべく急いで準備を整えろ!」

 「直ちに取り掛かります!」

 

 少し見回しても姿が見えないから、やはり声がでかいだけだな。受け応えている相手も中々だ。暑苦しい会話というのがまず浮かんだ印象だ。

 そしてその次に浮かんだのは、地精霊の言葉――対症療法――だ。吾輩が感じていた不安を、たまたま目の前で起きた不穏な状況に無理やり結び付けているだけであるが……、何故か鼻で笑えるような気分ではない。……ふむ、嫌な予感など外れてほしいものであるが、さて。

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