第41話
「エリス離れろっ! 小さくて可愛らしくとも魔獣であれば何をするかわからんっ!」
大声で警告しながら、窓から飛び出したジャスパーが一足飛びに娘の近くまで辿り着く。
だが、その一瞬の間で警告の内容とは反対に、エリスはいかにも咄嗟という様子でその小動物を抱きかかえていた。
「とうさま、どうしたのー? こわいー」
「……ふむ?」
泣きそうになりながらも茶色い毛玉を隠そうとするエリスは、大事なものを守ろうとするように見えていた。普段であれば、領主の娘として相応しい態度であるとジャスパーも褒めるところだったが、今は困惑しかできなかった。
「馬鹿息子よ、気持ちはわかるが落ち着け。“そういうこと”はもう私が散々やった」
ようやく追いついてきたハリーが、少し息を切らせながらジャスパーの肩に手を置く。
「は、はあ……」
ジャスパーとしても、その慎重な性分を誰よりも知っている父からこう言われては、矛を収めるしかなかった。
「すまなかったな、大声を出して」
「良い。吾輩は吠え掛かられた程度で腹をたてたりはせん」
まだ目の端に涙の粒が残る娘に対して謝罪したつもりのジャスパーだったが、その返答はまさに渦中の存在から返ってきた。
「かんようだー」
「そういうことだな。……ふむ? ああ、吾輩はタヌキである。そなたは?」
年齢に不釣り合いな難しい言葉を使ったエリスから、誰かからの影響を敏感に感じ取るジャスパーだったが、それに言及するよりも妙に尊大な自己紹介の方が早かった。そして基本的に育ちのいいジャスパーは、きちんと名乗られると無視などできない。
「俺はジャスパー・セヴィ・エバンズ。その子の父だ。……ああ、あとこの地の領主でもある」
「おお! 我が住処の隣にあるその屋敷の主ということか」
ジャスパーの子煩悩振りが垣間見られる自己紹介に今さら何かを言うものはおらず、またいつの間にか居候していたはずの庭を我が物扱いしている小動物に目くじらを立てるようなものもまたこの場にはいなかった。結果として、案外と和やかにこの初対面は着地したのだった。
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