挿話 セヴィ領主は神獣と邂逅する

第39話

 今年三十五歳になるジャスパー・セヴィ・エバンズは、そのミドルネームが示す通りセヴィ領の現領主だ。金色の髪をオールバックにきっちりと整えたその容姿は美形といって差し支えないが、一方で厳しい人柄が現れたその顔が実年齢より上に見られることも多いのが密かな悩みであった。

 そして今は王都の学院に四年生として通う長男レオに対しては、その厳しさを遺憾なく発揮しているジャスパーは、レオより十歳下の妹であるエリスにはとても甘いことでも領民に知られている。何しろその事をさすがに見かねたジャスパーの父――つまりはセヴィ領の先代領主――であるハリーが“爺”などと称してエリスの教育係に収まってしまったほどだ。それはそれで孫に甘いと領民から暖かく見られているのであるが。

 

 そんなジャスパーは領主であるが、自分の家でふんぞり返っているようなタイプではない。ここ最近が正にそうで、領内の各地を見て回るために領都であるセヴィの町を離れていた。

 子煩悩――特に長女に対して――のジャスパーにとっては、一番近くの村にだけ後学のために同行させた後でセヴィに帰した娘が、寂しがっていないかというのが目下の不安だった。

 

 「エリスよ、元気にしているかい?」

 

 だからこそ、セヴィの高台にある館に帰ってきたジャスパーが、何よりもまずエリスの部屋へと赴いたのは当然のこと。

 

 「息子よ……、屋内でそのような大声を出すなといつもいっておるだろう……」

 

 だから呆れた様子のハリーが、その行動を予測して待ち構えていたのもおかしなことではない。執事のような格好でエリスの教育係を自任するこの父が現れたとなると、ジャスパーとしては返す言葉は小言への返事ではなく、部屋にいないエリスの居場所に決まっていた。

 

 「父上、エリスはどこにいますか?」

 「お前は……はあ……。こっちだ」

 

 これ見よがしに呆れた態度をとった後で歩き出したハリーに、ジャスパーは素直についていく。

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