第37話
「らんぼうなのは、いけないんだよー」
「バルドゥルさん……」
驚いたのは吾輩だけではない。エリスは扉を粗雑に扱ったことに苦言を呈しているし、リットも呆れ顔だ。
「あ、や、エリスお嬢様、申し訳ねぇです……」
「あやまれてえらい」
この町の人間らしい、優雅さには欠けるが誠実さは感じられる態度でバルドゥルが謝ると、エリスはにこにこと嬉しそうにしている。他者に寛容であるのは良いことだ。
「それで、吾輩に用事ということは……、あの農場の件だな?」
「あ、お、おう。そうだその事だよ」
先ほどの剣幕を考えると、もしかすると良くない結果となってしまったのか? 精霊から聞いたことを伝えただけではあるが……、バルドゥルへと伝えたのは間違いなく吾輩の口からだ。責任から逃れる訳にはいくまい。
と、覚悟を固めたところで、リットがすっと近寄ってきていたことに気付く。エリスへの授業を中断して何をやっている、こやつは?
「バルドゥルさん、タヌキ様に何用でしょうか? 場合によっては、私が相手になりますが……」
一聴すると忙しい社長に代わって用件を聞く秘書といった風情だが、『相手になる』のあたりにそこはかとない不穏さが漂っている。
というか、リットの目が据わっている。苦情の気配を感じ取ってなのだろうが、これでは吾輩の方が迷惑者ではないか。
「リット、エリスへの授業はどうした? まだ終わっていないのだろう? 子供への教導を疎かにするのは、感心せんな」
「はい…………」
吾輩が少しきつめに言ってやると、リットはすごすごと戻っていった。その際にバルドゥルにはもう目もくれなかったあたり、闇が深まっているようにも感じるのだが……。
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