第36話
火精霊に頼まれてバルドゥルの相談に乗ってから、しばらくの日が経った。その後の経過はどうであるか聞きにいかなければな……などと思いつつも、今日は教会でうたた寝を楽しんでいた。
“あの日”以来、このお気に入りの場所――ミティア様を象った像の足元――に来るとリットが息を荒くして近寄ってくるのが、若干鬱陶しいのだが……、心地よい午睡の魅力には抗えんからな。
いや、まあ……、白い長髪を乱し、赤い瞳を爛々とさせてにじり寄ってくる様は……、鬱陶しいどころではなく少々恐ろし…………思い出すのはやめておこうか。
「ゆうしゃさまってすごいのねー」
「ええ、神々から使命と共に力を授かったのが勇者ですから。中でも最高神ミティア様から選ばれた者は救世の勇者と呼ばれて、世界そのものの危機に際して――」
しかし今日は邪魔されることなく過ごせている。エリスが教会で授業を受ける日だからだ。本来は子供たちを集めてこの様な授業をするそうなのだが、エリスはこの町の姫にして吾輩の友達であるからな、特別扱いとして個別授業となっているようだ。
教科書として開かれている絵本には、あまり子供向けにも見えない画風で立派な剣を持った人間の姿が描かれている。簡略化された絵ではオスともメスとも判別がつかないが、肩まである茶褐色の髪ははっきりと判る。髪と剣が、具体的に伝わっている内容ということなのだろうか。
「きゅううぅぅ」
あくびをきっかけにして、薄く開いていた目を完全に閉じる。最近は教会へ授業に向かうエリスにタイミングを合わせて、ここへ来ることが多い。落ち着いて過ごせるからな。
バアンッ!
「ここにいたか! タヌキよ!」
血相を変えたバルドゥルによって乱暴に開かれた扉の音で、気分の良くない眠気の覚め方をしたのだった。
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