第34話

 「では差し当たって、ここはどうすれば良くなるのだ?」

 

 右前脚でバルドゥルの実験農場をてしぽこと叩く。

 

 『翳っている地の恵みを別のもので補えば良いのですよ』

 「補えるものなのか?」

 『大地も、その上に生きる者たちも、そうして循環しているのですから。今はその循環に滞りが生じているのであれば、横から補ってやるのも一案でございます。ただし、先ほども申し上げましたように、対症療法に過ぎませんが』

 

 ……ふむ、またもや吾輩の聞き方が良くなかったようであるな。地精霊を相手にするときは、具体的な質問を心がける必要がありそうだ。

 

 「補うためには何を、どうすれば良いのだ?」

 『滞っている循環を――』

 「それは何だ?」

 

 地精霊の話こそが循環しそうになっていたので、不作法とは思いつつも言葉を差し挟む。相変わらず二つの点と一本の線でしかないヒマワリの顔は表情が読み取りづらいが、気を悪くはしなかった様子だ。

 

 『しばらくは恵みをあまり消費しない作物にしておき、他所から持ってきた植物などを少量撒いておけば良いかと思います』

 「時間が掛かりそうだな」

 『それは仕方がないことでございます。自然の循環というものはそういうもの、効率の良し悪しはあれど、無理に早めるのは――』

 「効率が良いものがあるのか?」

 『そうでございますね。恵みは虫や動物などあらゆる者にとっての恵みですから、農場のためというのであれば土にのみ吸収されやすいようにあらかじめ処理が必要です。そもそも――』

 『……はぁ』

 

 ようやく答えが見つかりつつある、というところで再び長くなってきた地精霊の語りに、今度は吾輩の言葉ではなく、火精霊の溜め息が差し挟まれる。

 

 『お前はいつも……まわりくどい……。バルドゥルの仕事場には乾いた木や骨のくずも多い……。あれで良いだろう……』

 『…………おそらくは、そうでしょうね』

 

 吾輩の時とは違い、たっぷりと間を空けてヒマワリ型の精霊は、トカゲ型の精霊に不満を表明する。

 確かに地精霊と火精霊は相性が良くないようだ。一応は、吾輩がこの場に来たおかげで話が進んだと思っておいて良いのか?

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