第32話
『火精霊君? わたくしに対して気後れしているからと、タヌキ様の肉球を煩わせるとは……、正気なのですか?』
吾輩から話を始める前に、地精霊は花を火精霊の方に向けて小言を始めてしまう。丸点が二つに線が一本という極めてシンプルな顔であるのに、なぜこうまで小憎らしい表情ができるのであろうか。
『むう……、頼りになるお方を頼ることは……道理だ。俺はお前と違って合理的……、己の見栄より皆の実をとる……』
対する火精霊は火精霊で……ふむ。普段は真面目な印象の奴なのだが、これではお互い様としかいえんな。
「ごほん、ぽこん。……もう良いかな?」
「っ!?」
咳払いをして精霊たちの注目を集めると、火精霊も地精霊も気まずそうに互いから目を逸らし合っている。妙な反応をするバルドゥルのことは、もう逐一観察することもなかろう。
「この農場の作物を見て欲しいのだ。元気がないらしいのだが、理由がわかるか?」
仕切り直して、先ほど聞いた問題について専門家たる地精霊に尋ねてみる。すっとこちらへ向いた地精霊のヒマワリ顔は一言でいうと『:)』で、吾輩は面食らってしまう。言葉は通じているはずだが、悩む素振りすら見せないというのは、こやつは本当に詳しいのか?
『それであれば、わたくしの方でも把握しておりますよ』
違った。専門家にとっては簡単すぎて表情も変わらぬ、ということであったらしい。
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