第31話

 最高神たるミティア様の魔力は世界中に満ちており、それより生じた精霊がまた、どこにでもいるのは道理であるということらしい。

 そして風精霊が気ままに吹く風のようにそこらを行ったり来たりしているように、地精霊は土石の目立つ場所――例えば実験農場――であれば“在る”はずだ、と。ただし意思疎通をするのであれば“居る”のでなければならず、その為には吾輩のような存在から話しかければそれでよい、といった情報を訥々と話す火精霊から聞けた。

 

 そういえば、吾輩は以前精霊を『個が全であり、全が個』と認識したが……、それはあくまで各属性の精霊の話であったようだ。別属性の精霊同士は互いを別の自我と認識しているために、仲の良し悪しなどが生じているのであろう。

 

 「ふむ……、地精霊はいるか? 知恵を借りたいことがあるのだ」

 

 とりあえずその辺の耕された土に向かって語り掛けてみたが……、これで良いのか?

 

 「ど、どうした、タヌキ? また独り言を……今度は地面に向かって……。そうか……、お前もきっと野生の頃は辛い経験が……。喋る小動物だもんなぁ……」

 

 バルドゥルうるさい。そなたの為にやっておるのに、邪魔をするな。

 

 『お呼びでございますか?』

 

 芽吹くように土から生じたのは、小さなヒマワリ。人間の膝くらいまでの高さで、花も精々手の平くらいの大きさか。……そして、やけにシンプルな顔がある花をこちらへ向け、葉を手のように動かして土から出て、根を脚のようにして歩き出す。

 ホラーなのかコミカルなのか、反応に困る外見である。

 

 『お初にお目にかかります、ミティア様に連なる高貴なお方。わたくしは地精霊でございます。どうぞ、お見知りおきを』

 「吾輩はタヌキである。その……ふむ、話をしたいのだが」

 

 茎の中ほど――おそらく腰――の前後に葉を当てて、根を交差させつつ、やけに堂に入った所作で花を下げる。過剰なまでに丁寧かつ優雅な地精霊のお辞儀を見て……、吾輩は朴訥な火精霊とは確かに相性が悪そうだ、と妙に深く納得をした。

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